雛形を参考にする場合のリスク4点

こんにちは。
【トマトの離婚サポート】トマト行政書士事務所の菊地です。

最近、
リーガルチェック(既に作成された協議書の内容をチェック、問題点、確認点等の指摘をするのみで文章作成は含まれません)
からの離婚公正証書(離婚給付契約書)作成依頼が続きました。

リーガルチェックをする分、料金が上乗せになります。
リーガルチェック 代金+離婚公正証書作成 代金+消費税。

とはいえ。
「本やインターネットに、雛形はたくさんある。」
「先日離婚した●●さんは、雛形で作った文章を公証人役場へ持ち込んで無事に作れたといっていた。」
という気持ちも分かります。

それできちんとした書類を作れるなら、無駄なお金は省きたいですよね。

お手軽にインターネットで雛形を調べられるなら、わざわざ行政書士事務所へ行く手間も省けます。

だから、まず文章を作る。
⇒なんとなく気になって、比較的安いリーガルチェックに出す。
⇒指摘されたことが分からない or 気になるけどどう書けばいいか分からない
⇒文章作成依頼
…という流れになります。

「自分で作れる!」がウリの雛形サイトもたくさんあります。
そして、実際に自分で作れます。

実際、大勢の方が雛形を利用していて、特に問題が無いように見えます。
それでは専門家に依頼するのと雛形とは、どう違うか。
雛形を使った場合のリスクを中心に、ここで書こうと思います。

いや訂正します。当事務所に依頼する場合と雛形との違いですね。
残念ながら、よくお話を聞かず、内容の説明もせず、文章を作って渡すだけの専門家もおられるようです。
当事務所だけが良いとは言いません。ご依頼になる事務所は、よく選んでください。

あなたが作った協議書の意味、分かりますか?

本やインターネットの雛形を参考にした文章を当事務所にお持込になる場合に、意外とよくあるのが、書いた文章の意味が分かっていないケースです。

「本に書いてあるとおりに作った」
「説明文章をよく読んで作った」
「こういうつもりで作った」
…とご本人はおっしゃるのですが、実際に作った文章を見ると、そういう内容になっていない。

そんな馬鹿な、と思うかもしれませんが、実際そうなんです。

いくつか実例を挙げます。

実例:「慰謝料がほしいです」

「離婚後1年経った」という方からご相談をいただいたケース。
※内容は若干ぼかしたり変更したりして記載しています。ご了承ください。

「慰謝料がほしい」とおっしゃるのです。
離婚時に慰謝料の請求をせず、1年経ってからの請求となると、法的に揉める可能性が高いので<弁護士さんを紹介しようか…>と考えつつまずはお話を伺いました

「離婚時は不倫していたことを知りつつ、早く離婚したくてとにかく焦っていた。離婚後も時効になっていなければ慰謝料請求できますよね?」

それはそうなのですが…と言いつつ、さらにお話を伺うと、離婚時に「離婚協議書を作った」とおっしゃいます。
それを見せてくださいと言うと、出てきたのはなんと、公正証書

内容を念のために確認すると、やはりあったのが清算条項

甲及び乙は,本件離婚に関し,以上をもって全て解決したものとし,今後,財産分与,慰謝料等名目のいかんを問わず,互いに何らの財産上の請求を~~云々

これがあると、この離婚に関しては、財産分与も慰謝料も、請求できなくなるのです。

ご相談者様に、清算条項の内容を説明しましたが、
「私が作った雛形には、そんな内容を書いた覚えは無い」
「公証人が勝手に作ったのではないか」
とおっしゃって、とてもご立腹でした。

でも、作成のときに公証人が説明するはずなのです。
内容に納得して、ご捺印したはずなのです。
実際にそういう内容で公正証書を作ってあるわけですし。

その後、公正証書というものについてご説明したところ、「緊張していてわけも分からず、判子を押してしまったのかもしれない…」と。
ご立腹がとけて、だんだん落ち込んで、うなだれておられました。

最終的には、この方には、弁護士を紹介しつつ、慰謝料請求についてご案内。
元配偶者に対する慰謝料ではありませんよ。
不倫相手に対する請求です。

実例:「全部持っていかれた!」

「元配偶者が、うちの家財道具を持っていこうとしている!!急いで相談したい!」
と、血相を変えて急遽予約をいれ、ご相談にみえた方のケース。
※内容は若干ぼかしたり変更したりして記載しています。ご了承ください。

うちは行政書士事務所だから、法的な揉め事は扱えませんが…とお断りしつつ、ひとまずお会いしてお話を聞くこととなりました。

ご相談者様がおっしゃるには、「離婚公正証書をタテに、家財道具を全部持っていこうとしている!!」とのことで、離婚公正証書をお持ちいただきました。
「どうやって作った離婚協議書ですか」と伺うと、ご相談者がご自分で、インターネットで見つけた雛形を参考に、自分でアレンジした文章を、公正証書にしたとのこと。

内容を見てみると…

乙は甲に対して,本件離婚に伴う財産分与として,乙所有の家財道具を甲の求めに応じて分与する。

こ、これは…。
さんはさんに対して、財産分与として家財道具を分与しますさんの求めに応じます。
…という、そのままの意味です。
こう書いてあれば、全部持っていかれても、文句言えません。
ご相談者様がおっしゃるには、
「何も無しで放り出すなんてかわいそうだから、何かほしいものがあれば譲るつもりで書いた。まさか、全部持っていこうとするなんて、非常識な!!」
とおっしゃいます。

でも、文章を作ったのはご相談者様。
こういうつもりだった、と言っても、「こういうつもり」を法的に有効な文章にしないと、何ともいえません。

一応、弁護士さんを紹介しつつ、内容としては元配偶者さんの行動に何も問題ないことも説明。
その後どうなったかは分かりませんが…。

公証人が「誤り」を指摘するとは限らない

公証人は、持ち込まれた原稿の「誤り」を指摘する場合もあれば、指摘しない場合もあります。

「公正証書なんて自分で作れる!」という方、それは確かに作ることができます。
でも、誤りをそのまま公正証書にされてしまうかもしれません。

これは、公証人が悪いわけではないんです。

公証人の仕事は、法的に有効なものかどうかを確認すること。
お客様がどういうつもりでその文書を作ったのか確認する公証人もいますが、そこまではやらない人のほうがずっと多いように思います。
また、確認するとしても、公証人が気になったことだけです。
離婚にまつわるアドバイスは、公証人の仕事ではありません。

普通、公正証書を作成する場合は、まず原稿を作って公証人役場へ持ち込むなり、FAXで送るなりして、確認してもらいます。
そして問題なければ、公正証書にします。
ここでいう「問題なければ」というのは、法的に問題なければという意味です。

「ふつう、離婚公正証書には、こういう条項が含まれていますけど、いいんですか?」
なんて言いませんし、そもそも公正証書に普通はあり得ません。
そのぐらい、離婚公正証書というものは、人によって様々な内容になるのです。
普通なんてありません。

実際、「養育費についての取り決めをしたいだけだ」と説明して公証人役場へ持ち込めば、離婚公正証書といっても清算条項無しで養育費についてのみ書かれたものだって、作成してくれるでしょう。
※実際に存在します。

そのときに持ち込んだ雛形が、誤っていた…というより、「そういうつもりで書いたものじゃない」としたら?
怖いですよね。
でも、その文章が法的に有効なものであれば、公証人がツッコミを入れる可能性は極めて低いとお考えください。
文章を持ち込んで「これを公正証書にしたい!」と言ったら、妙な書き方をしていない限り、そのまま公正証書になるのです。

誤りを簡単に修正できない

自分たちで作った離婚協議書や、公正証書。
これを簡単に直せるかというと、そうではありません。

公正証書を修正するとなれば、大変です。
簡単に直せません。

通常は、調停や裁判等を経ることになります。

上の実例に書いたような、
「そういうつもりではなかった!!」
という主張は、よほどの事情が無い限り認められません(よほどの事情があったとしてもなかなか認められません)。

離婚協議書や公正証書は何かあったときに役立つもの

それでは、今度は離婚協議書や公正証書の雛形によくある一文を考えてみましょう。

第2条(養育費)

甲は乙に対し,××(前項記載の~云々、など)の養育費として,平成●●年●月から同人が満20歳に達する日の属する月まで,毎月末日限り,金▲▲▲円を,乙の指定する丙名義の金融機関の預金口座に甲が手数料を負担して振り込んで支払う。

【説明ポイント】

  1. 養育費の支払時期と終る時期を忘れず書きましょう。
  2. 協議により合意した金額を書きましょう。相手に支払う意思があるのであれば、いくらでもかまいません。算定表はあくまで参考に。
  3. 毎月の支払い日、振込先銀行名、口座番号や口座の名義人等を記入しましょう。受け取る側が指定する口座、としてもいいでしょう。
  4. 誰が手数料を負担するのか、忘れずに書きましょう。

これは、複数の本と、雛形サイトの説明文等を参考に書いた、養育費に関する文です。

養育費については、この1項のみで終わり、としているものが多いように思います。

これでいいのかな?どう思いますか?

例えば…子どもが大学に進学したときの学費は?
子どもに何かあったら?病気になって入院したら?
支払う側に何かあったら?

そのとき、どうするのか。
ここにはそれらが一切書いてありません。
つまり、何かあったとしてもこの条件のままで突き進むか、もしくは、その都度話し合うか、どちらかになるということです。
普通は、これしか書いてなければ、何かあったとしてもこの条件のままで突き進みます。
そうせざるを得ません。
話し合うにしても揉めて調停・裁判…となる可能性が高いでしょう。

調停・裁判となれば…家庭裁判所が使う算定表が出てくるでしょう。
その金額と比較してみて、どうでしょうか。
少々苦労しても、お金を勝ち取るだけの価値がありそうですか?

結局。

離婚協議書だの、公正証書だのって、普段は役立ちません。
契約書と同じです。

アパートを借りている場合を考えてください。
普通に暮していて、何も問題なければ、入居の際の契約書なんて見ませんよね。
何かトラブルがあって…退去のときに法外なお金を請求されたり、予想外のものの修理費を請求されたりしたときに…あわてて契約書を見ます。

それと同じものが、離婚公正証書。
普段、普通に暮していたら、見ません。
普通に暮していけるなら、雛形でいいんです。
だって、見ないから。

何かあったときに、役に立つかどうか。
どういうときに、どうすれば、役に立つのか。
これが、雛形と、専門家に相談する場合との違いです。
そして、何かあったときのために作るのが離婚公正証書なのだから、
何かあったときに役立つ離婚公正証書、作ってくださいね。

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