成年後見人は自由に解任できない。

父が亡くなった。
突然のできごとだった。
確かに、平均寿命は超えているし、「早すぎる」というわけではない…
けれども、ついこの前まで元気だったのに。

あっという間の出来事だった。

あっという間だったから、父の遺言なんて、無い。

相続人は、母と妹、私の3人だ。
私は長男だが、同居はしていない。
実家からほど近くに家を建て、住んでいる。

妹は、結婚して、同じ市内に住んでいる。
新潟市は広いので、近くというわけじゃないが、車で小一時間の距離だ。

母は、家に一人で住むことになった。

母は昔から、しっかり者でしまり屋だった。
父の葬儀が終わってからすぐに、知人の伝手を頼って専門家に相談をしたらしい。
手続きに必要な金額を計算し始めた。

母が「遺産の分け方は任せてちょうだい」と言うので、好きにしたらいいよと答えておいた。
どうせ私も妹も、親から特に援助を受けた覚えは無いし、大学までの学費だけは出してもらった。
金に困っている境遇でもない。

それからしばらくして、母が電話してきた。
「相続手続き、しないでおこうと思うのよ。」
手続きしない?銀行のお金はどうするわけ?
「銀行なんて、お父さんが死んだこと言わなきゃ分からないんだから。適当に言って、解約すればいいのよ。あなたたち、お金いらないでしょ?」

あなたたち、というのはつまり、私と妹だろう。
妹のことは分からないが、別に私は今のところ必要ない。
しかし、自宅はどうするんだろう。
「家の相続手続きをすると、お金がかかるのよ。」
せいぜい何十万円じゃないの?
「払わなくてもいいなら、払いたくないじゃない。紹介してもらった専門家は、すぐに手続きしたほうが後で面倒じゃないとか言ってたけど、きっと報酬目当てよ。」
普通はすぐに手続きするんじゃないの?
「そんなことないわよ。ほら、茶道教室で一緒のAさん、何年か前にご主人が亡くなったけど、別に家の名義なんかそのままで何も問題ないんですって。専門家なんて、お金もうけたいだけなのよ。」

うん、まぁ、母さんがそれでいいなら。
そう言って、電話を切った。
後日、妹も同意したと聞いた。

それから、半年ぐらい経ったある日。
妹から、電話がかかってきた。
「母さんの様子がおかしい」らしい。
言われて家を訪れてみると、信じられないぐらい、家の中が散らかっていた。
冷蔵庫の中は、食べ切れないぐらい物がつまっていて、大半が賞味期限切れの状態。
母は「近所の人がごみを出させてくれない」という。
そうこうするうちに、私が居ることに気づいた近所の人が尋ねてきて、「最近、ごみの日ではない日にごみを出してみんなが迷惑している。言っても、曜日が分からない様子だ。」と言う。

母は、認知症だった。

認知症の進行は速かった。
配偶者を亡くした後で、急に認知症が進むことがあると聞いた。
まさか、しっかり者の母がそうなるなんて。
あっという間に、家で面倒を見れるような様子ではなくなった。
すぐに施設へ入れたいが、けっこう金がかかる。
母名義の預貯金があるものの、施設に預けたらあっという間になくなりそうだ。
誰も住まない実家を処分したいが、父の名義のままだ。
売るには相続手続きをしなければならないが、母は既に重度の認知症。
専門家に相談してみたが、まずは成年後見の手続きが必要だと言われた。

成年後見の手続きは、時間がかかるらしい(金もかかるらしい)。
成年後見人に、私か妹がなった場合は、さらに特別代理人が必要らしい。
相続手続きが終わっても、成年後見人は外れないらしい。

別に揉めているわけじゃないし、後でトラブルになることなんて無いのに、そういう問題ではないのだそうだ。
なんとかしてください、今すぐ手続きしたいんです、先生に迷惑かけません、報酬を倍にしてもいいと頼んでみたものの、そのままで手続きしてくれる専門家は見つからなかった。

母の状況はどんどん進む。
比較的低料金の施設は、何年か待たないとダメかもしれないとのこと。
すぐに入れる施設もあるが、金がかかる。
諦めて、成年後見の手続きから始めた…。

母が元気なときに、専門家から出してもらった相続手続きの見積もりが出てきた。
あのときに手続きしておけばよかったのに。
成年後見、相続。
かなり、金も時間もかかりそうだ。

解説「手続きはやれるときにやったほうがいいです」

今回は、成年後見制度に関するお話でした。

成年後見制度、けっこうややこしいです。
「制度の名前はちらっと聞いたことがある」けれど、正しく理解されている方はあまりいらっしゃらないと思います。
基本的に、一度手続きしたら、成年後見人を自由に解任できません。

身内の方が成年後見人になれば、報酬等が基本的には発生しません。
でも残念ながら、そうなるとは限りません。
成年後見人に第三者がなることもあります。
例えば、税理士や、司法書士といった方々が、成年後見人に就くこともあります。
そんなに珍しいことではありません。

「うちはそんな人に頼まないから大丈夫!身内でやるから!」
…とは行きません。
実は、誰を成年後見人にするか、判断するのは家庭裁判所です。
いくら手続きの際に「身内を成年後見人にしたい!」と要望しても、そのとおりになるかどうかは、分からないのです。
第三者が成年後見人になれば、成年被後見人…上のお話で言えば「母」…がお亡くなりになるまで、解任は基本的にはできません。
報酬はずっと発生します。
報酬についても、いくらにするか決めるのは家庭裁判所です。
もちろん、そんなに高い金額にはなりませんが、ずっと支払うと思うと、安いものでもないだろうと思います。

相続人に認知症の方がいるときは、成年後見の手続きをしなければなりません。
高齢なかたが、相続人になりそうな場合は、特に気をつけたほうがいいでしょう。
揉めるとか、トラブルとかに関係なく、「成年後見人を立てなければならない」のです。

ちなみに、相続人の誰かが成年後見人になっている場合は、「特別代理人」というものを、家庭裁判所に選任してもらう必要があります。
いずれにしても面倒ですよね。

そんなわけで、何が起こるか分からないですから、手続きは早めにしたほうがいいです。
できるときにやったほうがいいと思います。
更に言うと、遺言書をのこすことなどで、認知症になった後も、成年後見人を立てずに済ませる方法がありますから、一度お早めにご相談してみてください。

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