隠し子。…隠し子?

祖父が亡くなった……らしい。

相続人は、祖母と、叔父(父の弟)、私、私の弟。
本当は私の父が相続人なんだろうけど、ずっと前に事故で亡くなってしまったから、「代襲相続」ということで私と私の弟が、相続人になったというわけだ。

私は、祖父のことは全然知らない。
父が生きているときから、疎遠だった。
「疎遠」というよりむしろ「絶縁」というべきかもしれない。
母に、詳しく聞いたことは無い…なんとなく、聞きづらい。
父と母は、もしかしたら駆け落ちだったんじゃないかと思う。
そのぐらい、祖父や祖母のことは聞いたことが無かった。
叔父がいるのは、今回初めて知った。

その叔父という人から、連絡をもらった。
話したのは、当然今回が初めてだった。
電話で、書類を送るから返送してほしいといわれた。

そのうちに、○○事務所と印刷された封筒が郵送されてきた。
「印鑑証明書と戸籍抄本を同封して返送してください」とか、「同封の紙に署名して実印を押してください」とか、書いてある。
あと、父の戸籍抄本も、送らなければならないらしい。
署名する紙には、叔父が全財産を相続することに同意する、とだけ書いてある。
全財産っていっても何があるのかは、書かれていない。

よく分からない。
よく分からないが、父が亡くなったときにいろいろあったので、「よく分からないものに実印おしちゃいけない」ということぐらいは、分かっている。

○○事務所に連絡をいれて、「全財産って何があるのか」聞いた。
…が、○○事務所でもよく分からないとのことだった。
依頼者は叔父で、叔父の言うとおりに書類を作って送ったということだ。

よく分からないものに、実印は押せない。

そのうちに、叔父から催促の連絡が入った。
でもやっぱり、よく分からないものには関われない。
私も、私の弟も、既に結婚している。
家庭がある。
家庭に迷惑がかかるかもしれないのだから、無責任な書類に同意できない。

連日のように催促の電話をもらったが、断り続けた。
ちゃんと、相続の全容を教えてほしい。
財産として何があるのか教えてほしい。
…それだけを言い続けたが、叔父は言葉を濁した。
財産については、くれとも、イラナイとも、私は言わなかった。
まずは教えてほしい。
話はそれからだ。

ある日を境に、叔父から連絡がこなくなった。
それから、2ヶ月ぐらいして、○○事務所から連絡が入った。
相続人全員に集まってもらい、説明をするという。

指定された日時に、弟と二人、○○事務所へ行ってみると、予想していたよりも大勢の人が居ておどろいた。
叔父と祖母以外に、3人も居た。
さらに話を聞いて驚いた。
祖父には男の子の隠し子がいて、祖母は全然知らなかったということ。
「隠し子」といっても、認知しただけの子どもじゃなくて、戸籍にしっかりと入っていた時期があること。
3人は、隠し子の子だということ。
男の子…というかもういい年の大人だろうが、その隠し子は、もう亡くなったということ。
隠し子が居た時期からして、祖父の本当の子どもなのかどうかは分からないということと、それは今回の相続には関係が無いということ。
祖父が結婚する前に、戸籍に入っていた時期があること。
などなど…

○○事務所の人が言うには。
今じゃ考えられないが、昔は、養子にしたり子どもにしたりというのが、けっこうイイカゲンだったのだそうだ。
当時は養子にしようが子どもにしようが「長男」があとを継ぐんだから、関係なかったんだろう。
中には、本人の知らないうちに養子縁組して、知らないうちに結婚か何かで戸籍を抜けたため、本人が全く知らないままというケースもあるのだそうだ。

とにかく。
戸籍上は祖父に子どもが居て、祖父が祖母と結婚する前に、結婚して戸籍から抜けていた。
それが、今回判明した事実だった。
当時の事情を知っている人は誰も居ない。
そして、子どもである以上、その人も相続人なのだ。

これで相続人は、祖母と叔父、私と私の弟、「隠し子」の子ども3人になった。
私からしたら、弟以外は全員初対面だ。

財産のリストが配られた。
予想していた金額よりも、ずっとずっと多かった。
これを、ろくに説明もしないで、叔父は独り占めしようとしていたらしい。
「隠し子の子ども」の1人が、「よく分からないが、もらえるならもらいたい」と言う。
「さっきから、うちの父が、そちらの実子じゃないという話になっているが、父は親から捨てられ苦労したと言っていた。
そちらの説明、おかしいんじゃないか。」
慌てる○○事務所の人。
んー?てっきり実子じゃない可能性が高いのかとおもったが、そうでもないらしい。

一緒に住んでいるらしい祖母と叔父は、苦い顔をしている。
隠し子の子どもたちは、怒りをあらわにしている。
それはそうだろう…○○事務所の人たちも、祖父の子どもではない前提で話を進めていたのだが、そうじゃないとすればものすごく失礼だ。

ものすごく失礼な人たちだから、父と仲が悪かったのかもしれない。

今日集まったのは、「隠し子」の子どもたちが、「集めてきちんと説明しなければ訴える」と言ったのだそうだ。

すっかり、「隠し子の子」と祖母・叔父が対決するような雰囲気になり、私と私の弟は空気のようになって、そのまま今日は帰ってきた。
これからしばらく揉めそうだ。
叔父が相続の全容を隠して、手続きしようとしていたし、父や母とうまくいっていない親戚たちだから油断ならないと思っていたところに、想定外の親戚発覚。
もうぐちゃぐちゃだ。
叔父は事業をしているから財産は譲れないといっていたが、そういうわけにもいかないんじゃないか。

解説「身近な隠し子・養子」

隠し子が居た!
知らない養子が出てきた!!

…というと、「なんだかドラマの世界みたい」とおっしゃる方もおられますが、実は意外と普通のケースです。
けっこう多いです。
相続人の方(配偶者の方やお子さまなど)が、「全然知らなかった!!」とおっしゃる場合もよくあります。

隠し子、なんていうと、「認知した」ということが戸籍に書かれてある場合が多いでしょうか。
上のとおりで、戸籍に実施として記載があったケースもありますし、養子がいたことが判明する場合もあります。
いずれにしましても、そう珍しいことではありません。

第一に、昔は「家長制度」でしたから、本人の知らぬところで養子縁組があった…などということがあったようです。
それが一般的かどうかは、地域や家の状況その他で違うところでしょうけれども。
また、「事情があって親から別れさせられた」なんていうことも、昔はしばしばあったようで、「しかし別れた女性側は未婚のままで子どもを産んだ、それを後に認知した」なんていうこともあったようです。

こうして考えますと、現代は結婚すれば素直に婚姻届を出しますし、離婚も同様にしますが、昔は結婚・離婚が簡単ではなかった分だけ、制度では割り切れない状況がたくさんあったのかもしれませんね。

よく「財産が無いから遺言は書かない」なんておっしゃいますけれども、財産がある方はご自分の戸籍などもよくお調べになり、相続対策を生前になさいます。
だから、実際問題として、財産が少ない方のほうがよく揉めておられます。
相続に関して、裁判まで進んだケースは、財産総額1000万円未満が30%強、1000~5500万円が40%強だというデータもありますので、実に大半が相続財産が普通程度~少ない方だということが分かります。

現代は、非嫡出子だろうが嫡出子だろうが、法定相続分は同じです。

揉め事を避けるには?

遺言書も何もなしに、ぽーんと財産が現れて、もらう人ともらう人が話し合うのですから、ふつうは揉めます。

「家族ではないのだから、相続を遠慮するのがすじというものだ」
とか
「○○家の人間ではないのだから…財産を分けるといわれてももらわないものだろう
とか、おっしゃられる方も多くいらっしゃいます。
しかし、すじとか何とかで、ご自分に都合よくお考えになっているだけでは、そのお考えどおりに話を運ぶのは難しくなるようです。
少なくとも、法的な根拠は無いわけですから、主張を押し通そうとすると痛い目に合います。

やはり、まずきちんと、遺言書を作成するのがいいでしょう。
遺言書を遺しておいてもらえば、分け方に、だいたいの目処がたちます。
また、遺言書を作る際に、相続人になるであろう人をよく調べておけば、
「突然相続人が増えた!!」
なんていうことにはならないで済むでしょう。

相続争いは他人事ではありませんので、どうぞご注意を。

最後に

今回の事例紹介もそうですが、当事務所のコラムは、なるべく実際の相続の雰囲気をつかんでいただきたいと思うので、いろいろなことを書いています。

今回の場合も、普通の事例紹介であればただ「非嫡出子が現れた」部分にフォーカスするだろうと思いますが、当コラムでは敢えて、
「祖父とは疎遠」「父は既に亡くなっている」「叔父が全容を隠して手続きしようとしている」
という内容にしました。
実際の相続では、ただ何か一つだけトラブルというふうにはなりにくいです。
相続は、いろいろなことが同時に発生します。
どうぞその雰囲気をよくご覧ください。

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