お父さんは私のこと、もっと好きだったはず

Aは、父が残したという遺言書を見て、愕然とした。
「全財産を、長男Bに遺す」
遺言書に書かれてあったのは、たった一言だけだった。

そんなはずがない。こんな馬鹿な話は無い。

母は、Aが高校生の頃に亡くなった。
母に代わって、家事全般をしてきたのは父とAだった。
いつも父は、Aに感謝していた。
Aが居なかったらこの家は成り立たない。
いつもいつも、そう言っていた。

Aは父が大好きだった。
だからいつも、早起きして家事をがんばった。
父は父で、子どもに家事をさせるのが不憫だったのか、仕事の時間を減らして、家のことをしてくれた。

父は、AもBもちゃんと、大学までいかせてくれた。
そのうちに、Bが結婚するという話が持ち上がった。
最初から父と同居するという。
Aはそれで、家を出た。
Aだって、それまでに何回も結婚の話が出ていたが、父とBのことが気になって、なかなかできずにいた。
それが…Bはあっさり結婚し、しかも同居するという。
父もすんなり、同居にOKを出した。

腑に落ちない気持ちがあったが、諦めて家を出た。
そのうちにAも結婚した。

実家を出た後も、Aはたまに、顔を出した。
父を連れ出し、Aの家族とともに旅行もした。
もちろん全額Aが出した。
当然の親孝行だと思った。
しかし、BとBの嫁が、それを快くおもわないという理由で、だんだんと疎遠になっていた。

それから数年後、父が亡くなった。
遺されたという遺言書を見てみれば、全財産をBに遺すと。
そんな馬鹿な。
そんな遺言書を父が残すわけがない。
本当に父の残した遺言書だろうか。
父は私のことが大好きだったのだ。
Bの嫁が父に何か吹き込んだんじゃないか。
あの二人が父に会えなくしている間に、一体何があったんだ。

「真相」が分かるまでは、こんな遺言書、受け入れるわけにはいかない。
公正証書といって、専門家が作った遺言書らしい。
法的には有効らしい。
だからといって、引くわけにはいかない。
お父さんの本当の気持ちが知りたい。
お父さんは私のこと、もっと好きだったはず。
こんな遺言書を受け入れたら、お父さんの気持ちを裏切ることになるような気がするのだ。

解説「気持ちの問題だから引けない」

さて今回のお話は、気持ちがひっかかってしまったお話です。
かなり、よくある一般的なお話だろうと思います。
全くこのお話のとおりではないけれど、きょうだいがお互いにひっかかっていることってありますよね。

たまに「骨肉の争い」なんて言って、相続争いのことをうわさしたり、週刊誌に書きたてているものを見かけるけれど…。
「親族間で、お金のことで争って、醜態をさらしている。」
「お金についてがめつい人は、醜いものだ。」
…だいたいは、そういう論調でしょうか。
でも少なくとも私自身がご相談を受けたケースで、お金だけが引っかかっているケースはありませんでした。

上のAとBと父親のこと…のような。
似たような事例がすごくたくさんあります。
つまり、お金と愛情を、イコールで結んでいるところが、そもそもの発端というわけです。

「お金と愛情をイコールで結ぶ」という言い方をすると、第三者の視点からしたら、馬鹿な話に聞こえるかもしれません。
でも、上のようにストーリーとして目にすると、決して馬鹿な話とは言えないことがお分かりいただけると思います。

私が常々、相談者にお伝えするとおりで…。
相続や遺言では、法と、お金と、感情が交錯します。
相続や遺言において、お金と愛情をイコールで結ぶことは、決して馬鹿なことではなくて、むしろ当たり前のことかもしれません。

上では、Aから見た状況を書いてあるけれど、B側から見てみると様相が変わってくることが多いようです。
介護ですごくお金がかかったけれどもB側が全部負担をした…とか。
そもそも、疎遠になったきっかけは、AとBの妻との仲が悪くて、旅行中にAがBの妻の悪口を父親に吹き込むせいだった…とか。
たいがいは、双方ともに、それなりの事情を抱えています。
(もちろん片方だけが、本当にお金にシビアな人で、もっと取ろうと欲を出していることもあります。)

双方の話を聞く側としては、簡単に仲裁なんてできません。

間に入って何か判断できるとすれば、裁判所だけでしょう。
裁判沙汰にはしたくないのであれば、当人同士で話し合ってもらうしかありません。
私は話し合いに立ち会うことはあるけれど、ほとんど何も発言しません。
それは、ご依頼いただく前に、必ずお伝えしています。
そして揉めていると判断すれば、即座に手を引いております。
たまに、「私の側に都合のいい資料に先生のお墨付きをください、もちろんお礼ははずみます」というご相談をいただくこともあるけれど、そういうお話は一切お受けしておりません。
それぞれの人が抱える「それなりの事情」の重さをよく知っているためです。
事情を抱えている者どうし、本人どうしで話し合うしかないのです。
特に相続は、お金の問題だけでも、法律の問題だけでもないので。

事実として、相続に関する「事件」のうち、審判まで進んでいるものの4分の1以上は、財産の総額が1000万円未満だというデータがあります。
簡単に言い換えると、相続について、話し合いでも調停でもケリがつかずに裁判沙汰になったもののうち、4分の1以上は、相続財産の総額が1000万円未満ということです。
相続財産の総額ってつまり、不動産から、預貯金から現金から有価証券から、全部含めて1000万円に満たないというわけです。

そんな状態で、裁判ともなれば双方弁護士を立てます。
相続財産1000万円未満であれば、弁護士報酬でかなりの部分がふっとぶと思うが、双方ともに引きません。
相続が、お金だけの問題ではないという証拠でしょう。

AとBのケースに戻れば、二人はもともと、仲のいいきょうだいだったのかもしれません。
でも結果的にこうなってしまいました。

どうすればよかったかというと

どうすればよかったのかというと…

お父さんは、遺言書をどうして書いたのか、なぜこのわけ方をしたのか、書くべきだっただろうと思います。
遺言書だって、財産の分け方以外のことも、書けるのです。
法的な効力が発生するか否かはさておいて。

実際の遺言書は、特に公正証書は、とても冷徹な活字の並びに見えます。
そこに突然、一人の相続人にとってショッキングなことが書かれてあったら、ショックが倍増するのではないでしょうか。
お父さんは、お父さんの言葉で、遺言書を残した理由を書けばよかっただろうと思います。

それから、AとBのケースでは、Aの遺留分を無視した遺言書が書かれてあります。
言い換えると、Aが訴える隙があるというわけです。
これが、Aの遺留分を考慮した内容で、遺言書を作っていれば、たとえAが内容に腹を立てたところで、Aが法的に文句を言うことはできませんでした。
(その後、AとBの仲がどうなったかは分からないけれど。)

せっかく遺言書を作るのであれば、気持ちと法に配慮したものを作るほうが、遺された側も気持ちよく送り出すことができるように思います。

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